北海道の市町村議会会議録をPDFから収集・整理する研究
北海道内の市町村議会が公開している「会議録」をPDF形式のまま収集・整理し、自治体ごとの特徴語をあぶり出す研究を、これまでの木村ゼミでの先生、先輩方の研究を引き継ぐ形で取り組みました。
なぜ議会会議録なのか
地方議会の会議は公開が定められ、会議録の作成が義務づけられています。
多くの会議録は各自治体のWeb上でHTML形式で公開されています。
一方、PDFで会議録が公開されている場合はHTMLに比べてテキストの抽出や自治体間の比較がしづらく、地域全体の課題を横断的に把握することが困難でした。そこで本研究では、北海道179市町村を対象にPDF形式の会議録を収集・整理し、比較可能な形にすることを目指しました。
収集・整理の流れ
まず、会議録をPDFのまま一括ダウンロードするだけでは「どの自治体の、いつの会議録か」が分かりません。そこで、これまでの木村ゼミの研究では、自治体名・会議名・開催回数・定例会や臨時会の別・号数といった情報をファイル名に埋め込みながら、自治体ごとに異なるWebサイトの構造に合わせて収集プログラムを作成しています。Pythonの`requests`と`BeautifulSoup`を用い、自治体ごとに個別スクリプトを用意する形です。
今回、Pythonやライブラリの更新で動かなくなったスクリプトもあり、LLMを活用して動作確認と修正を行いました。
収集したPDFは`pdfplumber`でテキスト化したのち、CSV形式に整理しました。
CSVの各行は一つの発言に対応し、識別子、都道府県名、会期番号、号数、開催日、会期日数、表題、発言者の表記や役職、発言文、原本URLといった情報を持たせています。
特徴語の抽出方法
整理した発言データから、各自治体に特徴的に現れる語をTF-IDFで抽出しました。単語分割にはspaCy上で動く国語研長単位モデル(ja_gsdluw)を使い、地域固有の施策名や制度名を捉えられるよう長単位の解析を採用しています。品詞は名詞に限定し、4文字未満の短い語は除外、「議長」「議員」「予算」など会議録に共通するノイズ語もあらかじめ除いています。
予備調査では単純にTF-IDF上位語を見ると「取り組み」のような出現頻度は高いが特徴的とは言えない語が全自治体で上位に来てしまう問題がありました。そこで、複数自治体にまたがって出現しつつも一般的すぎない語に絞るため、文書頻度(DF)が2〜5の語だけを対象とすることで対応しています。
収集結果
北海道内でPDF形式の会議録を公開している82市町村を対象に収集を行い、対象期間(2023年4月〜2025年12月)の会議録を集めました。ただし、以下のような理由で37自治体を分析対象から除外しました。
除外理由は主に次の8パターンです。公開ページの構成変更やリンク切れ(6自治体)、HTML形式の会議録を含む(3自治体)、対象期間に該当する定例会・臨時会が存在しない(6自治体)、定例会と臨時会の判別が困難(3自治体)、発言者を示す記号がない(7自治体)、画像スキャンPDFで文字が取れない(3自治体)、二段組構成で読み順の復元が困難(8自治体)、議員ごとに別ファイルで公開されている(白老町、1自治体)です。
最終的に45市町村の会議録が分析対象となりました。以下の図は、収集した文字数で自治体を色分けしたものです。

分析:自治体らしい単語をあぶり出す
発言データが整ったところで、TF-IDF(ある自治体の会議録にだけ特徴的に現れる単語を見つける統計手法)を使い、自治体ごとの「特徴語」を抽出する分析を行いました。単語の切り出しには日本語の長単位解析(spaCyの国語研長単位モデル)を使い、「議長」「議員」「予算」といった会議録に共通するノイズ語は除外しています。
出てきた特徴語をもとに実際の発言を読んでみると、各自治体の関心事が浮かび上がってきました。一例を挙げると次のような具合です。
– 松前町:洋上風力(建設過程での経済波及効果を議論)
– 八雲町:サーモン養殖の拡大と種苗生産基地化
– 長万部町:新幹線工事(トンネル掘削の進捗)
– ニセコ町・上士幌町:景観条例(開発と景観保全のバランス)
まとめ
議会会議録という「公開されているが使いにくい」データを、地道なスクリプト修復とテキスト整形を経て、統計的に読み解ける形に整えるまでの記録です。
PDF形式によって生じる課題として、2段組やスキャンデータによってテキスト化が難しい場合があることがわかりました。
また、CSV化にあたって、発言者の記号が特定できずCSV化できないなどの問題も浮上しました。
LLMを活用すれば、Pythonやライブラリの更新に対応できます。サイトのフォーマットの変更への対処もできますが、人の手で確認することが必要です。
抽出された「特徴語」については、ほぼ文脈の確認が必要だといえるが、地域固有の特徴や課題をつかむための手掛かりとして有用な単語を抽出することができると考えられます。